「チロル会音楽部 〜ロック青春記」 第3話

        チロル会危機一髪!

 ある日、末原君が怪情報を入手する。それはたちまち会員全員に伝わり、全員の胸中に激震が走った。というのは、もちろん大袈裟に言っているわけですが(笑) 事の内容は、ほぼ次のようなものである(大袈裟ついでに、12〜3才の小僧たちの心境に立ち戻って、目一杯大袈裟に書いてしんぜよう。それが当時の内面の真実ということにもなる)。

 

登校中、ある女生徒の一団がお喋りに興じており、そんな中からこんな言葉が聞こえてきたらしい。

 

 「ねえ、チロル会って知ってる?」

 

 この瞬間、ギョッとした末原君。会員以外誰にも話していないはずなのに、なんでだ…? 

これは、1年坊主にとっては、底知れぬ不安と恐怖をもたらす重大問題だった。親にも先生にも隠れて自分たちが最高に楽しめる場、それを失うわけにはいかない。もし学校当局が捜査に乗り出したら、幸福な巣窟はあっけなく消滅させられる。それだけは、この世に決して起こってはならない最悪の事態だ。

口外した奴が内部にいるのだろうか? あいつか? こいつか? 誰もが疑心暗鬼になった。しかし、そんな内輪揉めをしている場合ではない、という結論に達した。

もしかすると、油断している間に、噂はかなり広がっているのかも知れない。捜査の魔の手は、意外とすぐそこまで忍び寄っているのかも知れないのだ。何はともあれ、来るべきXデーを無事乗り切るために備えておかなくてはならない。それが先決だ。

「職員室に呼ばれて、チロル会って何だ? と訊かれるかも知れんぞ」

「まさか、事実を答えるわけにはいかないよね」

「あたりまえじゃん」

「どんな噂が広がってるか分かんないよ」

「しかし、噂はあくまでも噂でしかないってことだ」

「先生に直接目撃されたことは無いよね」

「無いと思う」

「奉仕活動をしている会です、と答えればいいかもね」

「じゃあ、なんでチロル会っていう名前になってるんだ? と訊かれるぞ」

「そこが苦しいな」

「ちょっと待て、チロルっていうのが、チョコレートの名前だって、先生が知ってると思うか?」

「あ、たぶん、知らんな」

「チロル地方っていうのは、アルプスの麓にある綺麗なところだろ?」

「じゃあ、公園の早朝掃除でもすればいいじゃん」

「なんで?」

「公園が汚くなっているのを見て、綺麗にしたくなったんですよ。美しいチロル地方にあやかって、チロル会という名前にしました、と答えれば、ちゃんと辻褄合うぞ」

「じゃあ、実際に早朝に公園の掃除をして、誰かに目撃されれば良いということだな」

「城西公園なんかいいじゃん。学校のそばだし」

こうして、《チロル会奉仕活動部》という部門の発足が、正式に可決された。

その後、会員中、公園に近い2〜3名で、実際に奉仕作業が1〜2度実行された。か、どうかについては、記憶が定かでない。

それで、会本来の活動が、その後どうなったか…、そのへんも、どうもはっきりしないのだが、親バレで、あっけなく終焉を迎えたような気もする。どうだったかな?


(おわり)

 

と、これでは、面白くも何ともない。わざわざ小説仕立てにして書く必要もないし、大体、『チロル会音楽部』というタイトルの意味も、なんだかあやふやになってしまう。「器楽合奏部の裏活動」と無理に辻褄合わせを試みても、いかにも不自然である。

つまらない引っ張り方をしてしまったが、大方の皆さんがとっくに勘付いている通り、チロル会の会員たちは、音楽部を設立したのである。

器楽部でハーモニカを吹く毎日に不満を感じ、ある日、ある時、自分たちで楽器を持ち寄って、自分たちだけのアンサンブルを楽しんだ。それが1回では終わらずに、その後も続けられた。それが、このシリーズのタイトルでもある「チロル会音楽部」である。

 

つづく

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